UTCPプロジェクト「共生のための障害の哲学」×「Philosophy for Everyone」合同企画「べてる発さいはひ行 銀河鉄道の夜の旅――喪失と幸福をめぐる哲学ドラマワークショップ in べてるの家」(1)

2015年3月25日(水)および26日(木)のそれぞれ13:30から16:30まで、べてるの家の位置する北海道浦河町の総合文化会館アートホールにおいて、「共生のための障害の哲学」×「Philosophy for Everyone」合同企画「べてる発さいはひ行 銀河鉄道の夜の旅――喪失と幸福をめぐる哲学ドラマワークショップ in べてるの家」が開催された。スタッフとして、企画を担当した水谷みつる、松山侑生、大谷賢治郎の3名と、梶谷真司、庄崎真知子(劇団銅鑼)、古舘一也(company ma)の計6名が参加した。

スケジュールは、1日目に東京から浦河へ移動、2〜3日目に午前中べてる見学、午後哲学ドラマワークショップ、そして4日目は午前中べてる見学後、帰路についた。

なお、べてるに向かう道中、浦河町へ続く日高線が高潮による土砂崩れで運休しており、バスで向かうというハプニングに見舞われた。不安を抱えながらもゴトゴトと揺られていくと、とても美しい海が現れた。静かな海に囲まれ、キラキラとした日差しに照らされた車内は、奇妙なほど綺麗だった。寂しさと豊かさが交じり合ったような光景に、銀河鉄道の物語の情景が重なって映った。

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開催概要 ――哲学ドラマの里帰り

今回のワークショップは、当事者研究と哲学対話を演劇でつなぐ「哲学ドラマ」を、当事者研究が生まれた地、べてるの家で行うという、いわば里帰り公演である。哲学ドラマにとってとても重要な契機であり、演劇的な要素を用いたSocial Skills Training (生活技能訓練、以下SST)を導入しているべてるにおいて哲学ドラマがどう受け入れられるのか、またSSTとどう違うのか、それを確かめにいくという意味もあった。

今回の題材は宮沢賢治作『銀河鉄道の夜』。過去3回ほど浦河を訪れたことがある水谷が「べてるの人たち一人ひとりの物語と深く共鳴し合うどんぴしゃりの物語」として、提案したことから決まった。『銀河鉄道の夜』は、父親が不在の貧しい家庭で母親と暮らすジョバンニと博士の父を持つカムパネルラが、ケンタウル 祭の夜にふいに 銀河鉄道に乗り合わせ、2人で旅を続けるという物語である。

哲学ドラマでは、実際に俳優が参加者の間で 演技をし、その中でいくつかのワークを一緒に行う。ワークは参加者が演劇というフィクションのなかで哲学することを促すものだが、参加者が現実と空想を行き来しやすいように、毎回、空間ごと設定を変えている。今回は「べてる発さいはひ行 銀河鉄道の夜の旅」とタイトルにあるように、参加者を乗客、スタッフ陣 を添乗員兼乗務員と見立てた。1日目2日目ともにアイスブレイクに加え、ワークを2つ行い、2日間にかけて 銀河鉄道の夜の旅に出た。

配役および役割分担は、ナレーターおよび全体のファシリテーターを松山、ジョバンニを古舘、カムパネルラを庄崎、博士やザネリなどその他の登場人物およびアイスブレイクのファシリテーターを大谷、哲学対話のファシリテーターを梶谷と松山、テクニカルを水谷が務めた。
1日目――「誰もが何かの専門家」から「こころのなかの天使たち」へ

浦河町、それも平日のお昼過ぎの開催ということもあり、こぢんまりとした規模を予想していた。しかし、驚くべきことに、なんと60人以上の参加者が集まってくれた(あまりの大盛況に椅子が足りなくなり、慌てて隣の部屋から借りてくる騒ぎだった。 )。会場が黒山の人で埋め尽くされた光景は、その熱量とともに圧巻だった。

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ワークショップ1日目は「誰もが何かの専門家 -disability is ability-」「ファウストゲーム−心のなかの天使たち−」を行った。

まず、体からだほぐしとして全員で会場内を歩くというアイスブレイクを行った。歩く速度を早くしたり、遅くしたりしながら、ハイタッチをしたりする。人数がも多いこともあり、会場はかなり混沌とした姿様子になっていたが、後日、参加者から「普段ふだん、べてるにいても殆ほとんど話さない人がいるの。それが、あの歩くワークだと簡単にタッチできたの。あれはすごく良かったわ。」という感想を頂いただき、日常の壁を上手く壊すことができたようだった。

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からだもうまく温まったところで、物語の始まりを告げるように、ジョバンニが参加者たちの前に現れた。自分の父親は水夫で、遠い海に寮漁に出ており、そのせいで級友たちから「ラッコの上着がくるよ」といじめられるのだと、乗客(参加者)たちに語りかける。そんなジョバンニに対して、乗客らが何かアドバイスしてあげられないだろうかと、車掌(ファシリテーター)が問いかける。

ここで、「誰もが何かの専門家 -――Disability is Ability -」というワークを行った。このワークはそれぞれ自分の特性を活かした専門家ネームを自分につけ、その立場からジョバンニにアドバイスをするものである。皆、思い思いに専門家の名前をつけ、さまざまなアドバイスをしてくれた。「僕は相談の専門家なので、一緒に相談するかい?と言ってあげたい」「仲間をつくるために街に出てみたら」と、数々ドバイスをうけ 、空想のジョバンニと乗客との心の距離が縮まったように見えた。

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さて、物語の世界に戻ると、ジョバンニはいつのまにか銀河鉄道に乗車しており、カムパネルラもそこにいた。2人が銀河を旅するなか中、幼い女の子と男の子を連れた青年が乗車してきて、これから神様のところへ行くのだと語りだした。彼らの船は沈没し、自分たちより幼い子たちを数少ない救命ボートに乗せようとしたところ、他にも大勢の子どもたちがボートに乗れるのを待っていたのだという。その青年の心の葛藤について皆で考えてみようと、2つ目のワーク「ファウストゲーム−心こころのなかの天使たち−――Faust Game」を行った。

まず6つの班に分かれ、青年の心こころの中なかにいるだろう天使をポストイットに書き出してもらった。その際、なお、色々いろいろな性格の天使がいるので、いじわるな天使もいるかもしれないと伝えた。書き出した天使を班ごとにまとめて掲示してみると「自己犠牲の天使」「本当は俺も助かりたいよーという天使」「助けを呼ぼうという天使」など、個性豊かな天使が並んだ。そして、その天使たちと青年の葛藤を班ごとに劇にしてもらった。皆思い思いに天使に扮し、さまざまな場面をつくっていった。

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最後に、青年がとつとつと自分たちが取った行動(彼らは他の小さな子たちにボートを譲り、自分たちは沈みゆく船に残った。そして、気がついたら銀河鉄道に乗車していた。)について語ってくれた。乗客たちはジョバンニ達と共にその語りにしみじみと耳を傾けた。静謐な余韻を残して、ワークショップ1日目は終わった。

(松山侑生)